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大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)17号 判決

原告 城田正治

被告 大阪市長 大阪府知事

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大阪市長が原告に対して平成三年二月八日付でした大阪市浪速区元町一丁目七五〇番一四宅地一五・三〇平方メートルの土地について大阪市浪速区難波中一丁目一番一一宅地一六・一五平方メートルの土地を換地として定める旨の換地処分を取り消す。

2  被告大阪府知事が原告に対して平成四年一月二二日付でした裁決を取り消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告大阪府知事の本案前の答弁

原告の被告大阪府知事に対する訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告らの本案に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実(換地処分及び裁決に至る事情)

1  被告大阪市長は、大阪特別都市計画事業復興土地区画整理(以下「旧事業」という。)の施行者として、昭和二五年四月二二日、大阪市浪速区元町一丁目七五〇番地一四宅地四・六三坪(一五・三〇平方メートル、以下「本件従前地」という。)について、当時の所有者であった訴外玉城正夫に対して、中施行地区浪速区工区浪速区東部新川町附近ブロック番号五七符号一〇の土地五・六一坪(一八・五四平方メートル、以下「本件仮換地」という。)を仮換地として指定する旨の処分を行った。なお、旧事業は特別都市計画法に基づき行われたため、右処分は同法一三条に基づく換地予定地指定処分であり、土地区画整理法が昭和三〇年四月一日に施行されたことに伴い、同法施行法六条により換地予定地指定の処分は仮換地指定処分とみなされるにいたった(以下「本件仮換地指定処分」という。)。また、土地区画整理法の施行に伴い、旧事業は、その一部について大阪都市計画事業浪速地区復興土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)として施行されることとなった。

2  本件仮換地の指定は、仮換地ごとの確定測量(画地確定測量)を行う前に、現況測量に基づく縮尺六〇〇分の一の現形図に計画道路、土地の境界等を記入した図面を作成し、当該図面上で仮換地の指定設計を行って仮換地を指定したものである。

3  その後、被告大阪市長は、事業の進捗に伴い、平成三年二月五日に換地計画を決定し、本件従前地については、いわゆる現地換地により大阪市浪速区難波中一丁目一番一一宅地一六・一五平方メートル(以下「本件換地」という。)を換地として定めることとし、同月八日付で、原告に対しその旨を通知した(以下「本件換地処分」という。原告は、昭和五四年四月五日、本件従前地を当時の所有者から買い受けた所有者である。)。

4  本件仮換地の形状は、前記玉城正夫に対する換地予定地の指定通知添付の図面によれば長方形であり、地積は五・六一坪(一八・五四平方メートル)とされていたのに対し、本件換地の形状は、北側の境界線の長さが南側のそれに比して短い台形であり、地積は一六・一五平方メートルである。

5  原告は、平成三年二月一八日、被告大阪府知事に対し本件換地処分についての審査請求をしたが、同被告は、平成四年一月二二日付でこれを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

二  本件換地処分の違法性に関する原告の主張

1  仮換地指定及び変更処分の違法性

(一) 被告大阪市長は、昭和五四年四月九日、本件仮換地指定処分につき、土地の形状を長方形から台形に、地積を一八・五四平方メートルから一六・一五平方メートルに変更する旨の変更処分を行った。

(二) 本件仮換地指定処分は、土地区画整理法九八条一項の「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」として行われたものであるが、この場合には、土地権利者の権利関係の安定を図るため、仮換地指定の変更は許されない。

(三) 仮換地指定の変更が許されるとしても、被告大阪市長は、仮換地指定と同様、同法九八条四項の通知を行うべきであったのにこれを行わなかった。

(四) 同法七二条一項が施行者に測量目的の立入権を与えていることからすれば、被告大阪市長は実地測量を行ったうえで仮換地の指定をするべきであった。しかるに被告大阪市長は実地測量をせずに仮換地指定をした。

(五) また、実地測量をせずに換地計画(換地設計)を決定することはできないのに、被告大阪市長は実地測量をせずにこれらを決定した。

(六) 仮に被告大阪市長が実地測量をしたとしても、実地測量に際して本件従前地に立ち入ったのであるから、同法七二条二項の通知及び三項の告知を行わなければならない。しかるに大阪市長は右通知、告知をしていない。

2  仮換地の指定、変更処分と換地処分は、連続した一連の手続を構成し一定の法律効果の発生を目指している場合に該当し、このような場合には、先行処分の違法は、後行処分に承継されるというべきであるから、右1記載の違法は、本件換地処分に承継される。

3  本件換地処分の違法性

本件換地処分は次の諸点からすれば、法八九条一項所定の照応の原則に反している。

(一) 本件従前地の形状は長方形又は鍵形であったにもかかわらず、本件換地の形状は台形とされたが、ただでさえ小さい地積の土地の不整形は土地の効用を大きく減じるものである。

(二) 換地前後で正面道路幅に変化がなく、難波中一丁目に公園は存在しないことから土地の利用価値は向上していないし、本件換地処分により本件換地の東側に誰も使用していない三角形の無用の土地を生じさせており、宅地の利用の増進が図られていない。

三  右主張に対する被告大阪市長の反論、主張

1  (二1(一)ないし(三)に対して)

本件仮換地指定は図面上で指定設計を行ったために、その形状、地積が不正確であったところ、指定処分後に行われた実測の結果、本件仮換地の形状が台形であること及び地積が一六・一五平方メートルであることが明らかになったものに過ぎず、仮換地指定処分の変更があったわけではない。

2  (二1(四)に対して)

仮換地の指定は、必ずしも確定測量に基づきこれを行わなければならない訳ではない。本件のように確定測量を行っていたのでは建物が立ち並び、事業の進捗に著しい支障を来すことになる場合には、図面上で仮換地の指定設計を行って仮換地を指定することが許されると解すべきである。本件仮換地の指定通知には、添付図面記載の寸法、地積は確定測量の結果多少の変動があることが記載されている。

3  (二1(五)に対して)

換地計画(換地設計を含む)は確定測量に基づき策定したものである。

4  (二1(六)に対して)

本件仮換地の確定測量のために本件仮換地に立ち入った事実はないから、原告主張の通知、告知は不要である。

5  (二2に対して)

仮換地指定処分と換地処分は、それぞれ独自の効果をもった別個の処分であるから、仮換地指定処分の違法性は、換地処分に承継されない。

6  (三3(一)、(二)に対して)

本件換地はいわゆる現地換地であり、本件従前地と本件換地を比較すれば、本件従前地は、幅員約二三・六四メートルの道路に間口約六メートルで接した、面積一五・三〇平方メートルの台形の土地であり、本件換地は、右同一の幅員の道路に間口約六・二四メートルで接する、面積一六・一五平方メートルの台形の土地であって、両者は位置、形状に変化がない。

また、本件従前地が属する東部工区の恵美須町、関谷町、新川町付近の平均減歩率は約二二・五八パーセントであるのに対して本件従前地は減歩されておらず、むしろ公簿上では増換地となっている。

換地の前後を通じて正面道路の幅員に変化がないこと及び難波中一丁目に公園がないことは認めるが、本件事業によって都市計画道路難波住吉線をはじめ六つの都市計画道路が整備されたほか、幅員二〇メートルないし四メートルの区画街路が整備され、公園も増加し、格段の利用増進が図られている。

いずれの点からしても本件換地処分には、照応の原則に違反するところがなく、適法である。

四  本件裁決の違法性に関する原告の主張

1  審理不尽の違法

原告は、被告大阪府知事に対して、被告大阪市長がなした実測の日時について釈明を求めていたが、被告大阪府知事は右の釈明をせず、原告の反論、反証の機会を奪った。

2  理由不備の違法

(一) 本件裁決は、本件仮換地指定処分が、「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」ではなく、「工事のため必要がある場合」に該当すると認定しているが、右は事実に基づかない認定である。

(二) 本件裁決は、仮換地の地積が一八・五四平方メートルであったものが、一六・一三平方メートルに減少した点について、確定測量によって生じた誤差に起因する蓋然性が高いとしているが、右は仮換地指定処分の変更処分が行われた事実を看過している。

(三) 本件裁決は、本件従前地と本件換地が照応しているとしているが右判断は誤っている。

(四) その他、本件裁決は、本件仮換地指定処分、同変更処分の違法性及び本件換地の違法性を看過した違法がある。

五  被告大阪府知事の本案前の主張

原告は、本件訴訟において、原処分の取消しの訴えとこれを維持した裁決の取消しの訴えを併合して提起しており、このような場合、原処分を取り消す旨の判決がなされた場合には、裁決取消しの訴えの利益は失われるし、また、原処分を維持する旨の判決がなされた場合にも、原処分が違法でないことが判決によって確定するので裁決の取消しを求める利益はないこととなる。したがって、いずれにしても裁決の取消しを求める訴えの利益はないというべきであり、原告の被告大阪府知事に対する訴えは却下されるべきである。

六  被告大阪府知事の本案に対する反論、主張

1  (四1に対して)

審査請求人が処分庁たる市長に釈明を求め、あるいは審査庁たる知事をして処分庁に釈明させることを要求した場合において、こうした要求を審査請求人が行い得るか否かについて法はなんら規定を設けていないし、また、審査庁たる知事がこれに対してどのように対処するかについても法は何ら規定を設けていないのであるから、その扱いは、審査庁の裁量に委ねられた事項というべきである。したがって、原告の釈明要求に応じなかったとしても、本件裁決手続に違法性があるということはできない。

2  (四2(一)ないし(四)に対して)

行政事件訴訟法一〇条二項により、裁決取消しの訴えにおいて原告が主張し得る違法事由は、裁決固有の違法事由に限られるところ、原告が四2(一)ないし(四)において主張する違法事由は、いずれも、原処分の違法をいうものであって、右は裁決取消しの訴えにおいて主張することはできない。

裁決固有の違法事由である「理由不備の違法」とは、審査庁が当該処分について審査請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した理由が明らかでない場合をいうのであり、本件裁決はこの点においてなんら瑕疵を有しない。

第三当裁判所の判断

一  原告は本件仮換地指定処分の後、昭和五四年四月九日に仮換地指定の変更処分があった旨主張する(第二の二1(一))ので、この点から検討する。

1  乙四、五号証、六号証の一、二、第八、一〇、一二号証、証人渡辺一之及び同栄元進の各証言並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる(一部争いのない事実も含む。)。

(一) 本件仮換地の指定は、前記第二の一2記載のとおり、仮換地ごとの確定測量(画地確定測量)を行う前に、現況測量に基づく六〇〇分の一の現形図に計画道路、土地の境界等を記入した図面を作成し、当該図面上で仮換地の指定設計を行って仮換地を指定したものであるが、右は旧事業及び本件事業が第二次世界大戦からの復興を目的として施行されたものであり、また市街地を施行区域としていたことからも特に事業の急速な進捗が必要とされていたところ、焼失地上に建物が次々と新築されてしまうと事業の施行上著しい支障を来すこととなるため、できる限り速やかに仮換地の指定を行い、公共施設に関する工事を実施する必要があったことから、前記のような方法が取られたものであり、その後の工事の進行と平行して画地確定測量を実施して仮換地の形状及び地積を確定することとされた。

(二) 本件仮換地の指定に際しては、地積が小さかったことや、敷地一杯に建物が立っていたことから、本件従前地と位置及び範囲を同じくする土地をそのまま仮換地として指定することとされたが、本件従前地上及びその付近は建物が密集しており、本件従前地の形状、範囲を正確に知ることができなかったことから、計測が容易であった本件従前地の道路側に面した西側間口の実測値(三・三間)と本件従前地の南側隣接地の南側間口の実測値(一・七間)に基づき、本件従前地の形状を長方形であると想定し、その地積を、五・六一坪(三・三×一・七=五・六一、一八・五四平方メートル)と計算して、従前地と同一の位置、範囲につき仮換地を指定したものである。

本件仮換地の指定通知には、添付図面記載の寸法及び地積は概数であり、確定測量の結果多少の増減があることが付記された。

(三) その後、大阪市長は、順次画地確定測量を実施し、本件仮換地付近に関しては、遅くとも、昭和三六年六月頃までには、画地確定測量を終えた。その結果、本件仮換地(すなわち本件従前地)は、西側が三・四三間、東側が三・五八九間、北側が一・〇九間、南側が一・七三五間のほぼ台形の形状であること、面積は四・八八坪(一六・一三平方メートル)であることが判明した。

(四) 大阪市長は、平成三年二月五日、画地確定測量に基づき作成された換地設計を含む換地計画を決定し、本件従前地について、いわゆる現地換地を行うこととして、本件従前地(すなわち本件仮換地)と同一の位置、範囲の土地を換地として定める旨の換地処分を行った。但し、地積については、計算方法の誤差を修正した結果、一六・一五平方メートルとされた。

2  以上の事実によれば、本件仮換地指定処分は、本件従前地と同一の位置、範囲の土地を仮換地として指定した処分であって、その内容は仮換地指定処分が効力を失うまで変更はなく、画地確定測量によって、土地の形状及び地積が当初通知されたものと異なることになったのは、図面上の指定設計に基づき行われた仮換地の指定に、画地確定測量の結果に即して一部訂正を加えた結果に過ぎないと解するのが相当である。

ところで、甲四、五号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件仮換地に関する固定資産課税台帳上の仮換地の地積が、昭和五四年度には一八・五四平方メートルであったものが、昭和五五年度に至って一六・一三平方メートルに変更されたことが認められ、原告はこれを根拠の一つとして昭和五四年四月九日に仮換地指定処分の変更があったと主張しているものと思われるが、右の時期に課税台帳上の地積が変更されたのは、甲七号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、画地確定測量の結果明らかになった仮換地の地積を課税台帳上の地積とする作業が何らかの理由で右時期まで遅れたことによるものと推認されるから、課税台帳上の地積の変更が右時期になされたからといって、仮換地指定処分の変更があったと認めることはできない。

したがって、本件仮換地指定処分の変更があったことを前提とする原告の主張(第二の二1(一)ないし(三))には理由がない。

二  次に、原告は本件仮換地指定処分の違法を主張し、これが本件換地処分にも承継されると主張する(第二の二1(四)ないし(六)、同2)ので、検討する。

仮換地指定処分と換地処分はそれぞれ独立した別個の行政処分であるうえ、法律上換地処分をするために必ずしもこれに先立って仮換地指定処分をすることを要せず(土地区画整理法九八条一項、旧特別都市計画法一三条一項)、また仮換地の指定は換地処分の効果が発生するまでの暫定的な処分に過ぎないから、仮換地指定処分に固有の違法は、換地処分に承継されないと解すべきである。

したがって、原告の第二の二1(四)ないし(六)、同2の主張は採用することはできない。

もっとも、第二の二1(五)、(六)の各主張は本件換地処分自体の手続的違法を主張するものとも解し得るので、ここで検討しておくと、前記第三の一1(三)、(四)認定のとおり、大阪市長は確定測量を経て換地計画を決定したことが認められ、また、乙一〇号証、証人渡辺一之及び同栄元進の各証言によれば、本件仮換地及び付近土地上には建物が密集して立っており、本件仮換地に立ち入って測量をすることができなかったため、大阪市の測量担当の職員は、隣接土地上の建物の内部から壁の厚さ等の誤差を考慮のうえ、境界を確認し右確定測量を行ったものであり、確定測量の際に本件仮換地に立ち入っていないことが認められるので、いずれの主張も理由がない。

三  本件換地処分の適法性(照応原則の違反の有無)について検討する。

前記第三の一1(二)ないし(四)認定のとおり、本件換地処分はいわゆる現地換地であり、従前地と位置、範囲とも同一の土地が換地として定められている。そして、換地の前後を通じて前面道路の幅員(約二三・六四メートル)には変化がなく、乙八、九号証及び弁論の全趣旨によれば、本件従前地を含む施行地区では、都市計画街路難波住吉線ほかの幹線街路が整備され、区画街路についても整備されたこと、公園の設置箇所及び面積も格段に増加したことが認められるのであるから、本件換地の利用状況、環境は以前に増して改善されたといわなければならない。また、乙八号証及び証人渡辺一之の証言によれば、本件事業のうち、本件換地付近(恵美須町、関谷町、新川町付近)の平均減歩率は二二・五八パーセントであると認められるに対し、本件換地は従前地の公簿上の地積より増加しており、むしろ他の土地よりも有利な取り扱いを受けている。

以上の各点からみれば、本件換地は土地区画整理法八九条一項に定める諸要素につき照応しているというべきである。

これに対し、原告は、従前地の形状が長方形又は鍵形であった旨主張し(平成五年五月二八日付準備書面第三の一)、本件換地が台形である点をもって従前地と照応していない旨を主張するが、本件従前地の形状については、原告も当初は台形であったことを認めていたものであり(平成四年七月二〇日付準備書面二)、その主張するところは必ずしも明確ではないというべきであるし、原告が援用する甲六号証も、乙一〇号証及び証人栄元進の証言に照らせば、これのみによって従前地の形状が台形であったとの前記認定を左右するに足りない。

その他、本件換地処分について照応を欠くことを窺わせる事実はなく、また、本件換地処分に至る経緯にも違法な点は認められないから本件換地処分は適法である。

四  本件裁決の取消請求について検討する。

1  まず、被告大阪府知事は、本件は原処分に対する取消請求とこれを維持した裁決に対する取消請求が併合提起されている場合であり、この場合には裁決取消請求には訴えの利益がないとの本案前の主張(第二の五)をする。

しかし、本件のように原処分に対する取消請求を棄却する場合であっても、仮に裁決が判決によって取り消され、審査庁が改めて裁決をする際に、新たな攻撃防御方法が提出されるなどした結果、審査庁が原処分を不当又は違法として取り消す可能性が絶無であるとは断言できないから、裁決を取り消す意味が全くないとはいえない。

したがって、裁決取消請求の訴えの利益を肯定すべきである。

2  そこで本件裁決の適法性について検討する。

(一) 審理不尽の主張(第二の四1)について

原告は、審査手続において、大阪市長がなしたと主張する実測の日時について釈明を求めたにもかかわらず、大阪府知事がこの点につき大阪市長に対して釈明を求めなかったことをもって、裁決の手続に違法があると主張する。

行政不服審査法に基づく審査手続は、書面審理主義と職権主義をその基本としつつ、口頭で意見を陳述する機会を与えるなど審査請求人に各種の権利を認めているが、処分庁に釈明を求めるよう審査庁に要求する権利を認める規定はなく、むしろ、処分庁に弁明書の提出を求めることが審査庁の権限とされており(同法二二条一項)、弁明書の提出がなくとも審査庁自ら事案を十分把握でき、請求に理由がないと判断したような場合には棄却の裁決ができると解されるところからしても、処分庁に釈明を求めるか否かはもっぱら審査庁の裁量に委ねられている事項というべきであり、釈明を求めなかったからといって違法とはいえない。

(二) 理由不備の主張(第二の四2)について

行政不服審査法四一条一項が裁決書に理由を附記することを要求するのは、審査機関の判断を慎重ならしめるとともに、裁決が恣意に流れることのないようにその公正を保障するためであると解されるから、その理由は、審査請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を審査請求人に理解できる程度に具体的に明らかにすれば足りると解するべきである。

そして、甲三号証によると、本件裁決は、被告大阪市の本件換地処分を正当なものと判断するにおいて、原告の主張する不服の事由にそって、判断の根拠、主文に至る論理的な過程を前記の程度に具体的に説示しているので、理由不備があるとは解し得ない。

なお、原告が第二の四2(一)ないし(四)において本件裁決の理由不備として主張するところは、結局、すべて原処分の違法をいうに過ぎず、本件裁決固有の瑕疵とはいえないと解されるので、行政事件訴訟法一〇条二項により主張自体失当である。

五  結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾政行 小野憲一 井田宏)

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